2011/11/03

ロシアの巨大ガス会社がやって来る

ロシア国営ガス会社(Gazprom)は、日本の電力・ガス会社にLNGを販売するだけでなく、発電事業に参加したいようだ。具体的な参入方法は不明であるが、地域独占事業になっている日本の電力・都市ガス業界に変化をもたらす可能性がある。このブログ記事の最後に、競争を促すための提案をしたい。

【 ニュース 】

露ガスプロム、日本に進出 発電事業 東電、三菱商、三井物と協議 (2011/10/29)[1]

世界最大の天然ガス供給会社、ロシア国営のガスプロムは、日本の発電プロジェクトへの参画と燃料供給をめぐって東京電力と三菱商事、三井物産の3社と協議を行った。液化天然ガス(LNG)採掘を中心としたエネルギー事業で、日本とロシアの協力関係を進展させる取り組みの一環とみられる。

モスクワに本社を置くガスプロムがウェブサイトに27日掲載した文書によると、同社のアレクサンドル・メドベージェフ副最高経営責任者(CEO)は日本側の3社の幹部と東京都内で会談したという。3社のうち、日本の商社の上位2社を占める三菱と三井は、ロシア・サハリン沖の石油・天然ガス開発プロジェクト「サハリン2」をめぐり、ガスプロムと提携関係を結んでいる。

一方、原発事故による破綻を回避するため公的資金での賠償支援を求めている東京電力にとっては、ガス火力発電所を新たに建設し、老朽化した施設に代わる発電拠点を確保することが急務となっている。ガスプロムのウェブサイトが示唆するところによると、今回の会談では、日本のエネルギー事業計画への同社の将来的な参入についても話し合われたもよう。

メドベージェフ副CEOは先月27日、今年3月に発生した東京電力福島第1原子力発電所の事故を受けた原発稼働停止に伴う影響を補うべく、ロシアが日本に対してLNG32万5000トンを追加供給したことを明らかにしている。 

日本は世界4位のエネルギー消費国だが、国内で消費されるガスについてはその100%をLNGという形での輸入に頼っている。(ブルームバーグ Yuriy Humber)

【 コメント 】

1.時代の変化

(1) 2004年頃
「サハリン1プロジェクト」[2] で産出される天然ガスをパイプラインを敷設して輸入することを日本の電力・ガス業界は断った。政府は、間接的にそのプロジェクトに権益を有していたのにも関わらず、また、エネルギーの安定供給に資するにも関わらず、民間企業の考えを尊重した(せざるを得なかった)。その結果、2004年11月、ガスは中国向けに輸出されることになった。(ただし未だガスは輸出されていない。)

日本の電力・ガス業界がパイプラインを方式を拒否した理由として、以下のことが考えられる。
①LNG受入施設が整備されているので、輸入するのであれば、LNGで輸入すべき。
②パイプラインを敷設するには、敷設費用以外にも、敷設権の確保、漁業権の補償に費用がかかる。
③パイプラインを敷設すると、一定量のガスの購入を長期間にわたって コミットせざるを得ない。

(2) 2009年
もう1つの「サハリン2プロジェクト」[3] では、天然ガスをパイプラインではなく、液化して輸出する方式を採用しており、2009年4月に最初のLNG船が日本に入港した。

(3) 2011年
福島原発の事故により日本全土の原発の稼働率が低下した。それを補填する主役は天然ガス発電である。ちなみに、2011年9月のLNG輸入金額は、円高にも関わらず、前年同月比49.8%増加している。[4]

2.Gazpromの考え方

2010年の日本のLNG輸入量の8.8%はロシア産であるが(図1参照)、Gazpromには次のような意図があると想定される。
①販売量を増加させるだけでなく、シェアを増加させる。
②最終的には、日本の電力会社やガス会社が保有するLNG受入施設の利用権を確保して、Gazpromが日本の大口需要家に直接 販売する。

図1:「日本のLNG輸入国」「LNG生産量」 [5]  (図をクリックして拡大)



 






3.提案

日本は世界的に割高のLNGを購入している (図2)。要因は、日本は天然ガスを生産していないし、パイプライン網を整備していないからだが、それ以外にも、日本の電力会社・都市ガス会社は、産ガス国とシビアに交渉しなくても確実に利益を確保できるからである。電力会社やガス会社は、
①原燃料費調整制度により、燃料費は電力・ガス料金に転嫁できるし、
②地域独占事業である、という生ぬるい環境におかれている。

図2:2010年 LNG輸入価格 [6] (図をクリックして拡大)














日本の消費者が割高なLNGを購入しないためには、競争原理を導入する必要がある。

原発事故の後、電力業界の競争を促すため、「発電・送電分離」について検討されつつあるが、都市ガス業界でも同じように、「ガス輸入・送ガス分離」にすることは可能だろうか? NOである。なぜならば、米国や欧州のようにガスパイプライン網を整備するには巨額の投資が必要になるので、現在の財政事情においては、現実的でないからだ。

実は、国家予算を使わずにすむ方法がある。ロシア以外の産ガス国の国営ガス会社も、チャンスさえ与えられれば、ロシアのGazpromと同じことを考えるに違いない。カタールやマレーシアに同じようなチャンスを与えるのである。産ガス国国営ガス会社間の競争(例:Gazprom vs. カタールガス)を促すこともできるし、産ガス国国営ガス会社と日本の電力・ガス会社間の競争(例:Gazprom vs.東京ガス)を促すこともできる。

これには2つのメリットがある。1つは、日本の市場を目指してLNGが供給されるので、日本国として安定供給を確保できるし、もう1つは、日本の消費者は国際レベルの価格で購入できるようになる。

石油精製事業は外資に門戸開放されているが、供給の面で問題がないことは実証済である。天然ガスも同じようにできるはずである。

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【 参考資料 】

[1] SankeiBiz 2011/10/29
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/111029/mcb1110290503012-n1.htm
[2]サハリン1のHP
http://www.sakhalin-1.com/Sakhalin/Russia-English/Upstream/default.aspx
日本国政府がSODECO社を通じて、15%の権益を保有している。
http://www.meti.go.jp/committee/materials/downloadfiles/g51111a08j.pdf

国会でも議論されている。例として、
2006/10/25:衆議院 経済産業委員会
http://www.shugiin.go.jp/itdb_search.nsf/ITfoSearch2?OpenForm&Seq=1
近藤洋介議員(民主党)、甘利明大臣(自民党)
2008/3/15:衆議院外務委員会
http://www.shugiin.go.jp/itdb_search.nsf/ITfoSearch2?OpenForm&Seq=1
水野賢一議員(当時自民党、現在みんなの党)

[3]サハリン2のホームページ
オペレーターSakhalin Energy Investment Company Ltd. (Sakhalin Energy) のHP
http://www.sakhalinenergy.com/en/default.asp
[4] http://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/gaiyo2011_09.pdf
[5] http://www.bp.com/sectionbodycopy.do?categoryId=7500&contentId=7068481
[6] http://www.argusmedia.com/Natural-Gas-LNG/~/media/Files/PDFs/Samples/Argus-Global-LNG.ashx

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