2013/04/29

尖閣漁船衝突事件:民主党政権の対応を振り返る

自民党の丸山和也議員が、2013年4月23日に開催された参議院予算委員会において、2010年9月に発生した尖閣漁船衝突事件を取り上げた。丸山議員の主張は、
①菅内閣は中国の恫喝に脅えて、公務執行妨害で逮捕した中国人船長を釈放した、
②官邸が地検に命令を出して釈放した。すなわち政治が指揮権発動して司法に介入した、
という疑惑があるので、菅直人元首相及び仙谷由人元官房長官を参考人として招聘し、集中審議することを委員会に求めた。[1]

丸山議員が求めている集中審議を早急に実施して、事件の事実関係を整理し、事件を風化している日本国内に向けて、増長しつつある中国、そして世界に向けて情報を発信してもらいたい。中国との関係において、一時的には関係が悪化するだろうが、その過程を経ないと、真の意味で日中関係が改善できないと思う。

①日本人の一部(おそらくは多く)は、「中国と摩擦を起こさないことが大切である」と考えている。それが「弱腰外交」になり、外交攻勢を招いている。[2]

②中国政府は、「日本は服従する国だ」「日本は脅せば譲る」と考えている。
・フジタの社員を拘束した。(後述)
・レアアースの輸出を禁止した。[3]
・一連の反日デモを規制しない。

③世界の一般的な人々は、「無人島を巡って日本と中国が争っており関係が悪化している」というレベルの情報しか知らない。事件当時、中国はフジタの社員を拘束したが、日本政府がその事実を積極的に世界に向けて発表していれば、世界中が日本の味方になってくれたはずである。これからでも遅くない。日中関係に係る包括的な情報を積極的に発信することによって、世界の人々は日中のどちらに非があるかを判断することができるだろう。


以下、国会での委員会での発言を基に、経緯、フジタの社員拘束、指揮権発動に関する議員の見解をまとめてみた[4]。丸山議員がいうように「この事件はある意味では戦後最大の事件」[1]であり、風化させてならないことを改めて認識した。


1.経緯

この事件は、2010年9月、菅直人首相、仙谷由人官房長官のときに発生した。

図:尖閣漁船衝突事件の経緯 [5]



9/7:中国漁船が海上保安庁の巡視船に衝突。船長逮捕。
9/9:石垣海上保安部が船長を公務執行妨害容疑で那覇地検石垣支部に送検。
9/13:船長以外の船員(14人)を帰国させ、漁船を返す。
9/19:中国人船長の拘置期間10日間延長(29日まで)。
9/20:中国はフジタの社員4名を拘束した。
9/21:フジタは社員が拘束された旨、在上海総領事館に連絡した。[6]
9/23:中国側から、日本政府に対し領事通報がある。
9/24:検察首脳会議で釈放が決まる。那覇地方検察庁が船長を処分保留で釈放と発表。
9/25:船長を釈放。
9/30:フジタの3人解放。
10/9:フジタの最後の1名解放。
11/1:漁船衝突時の映像(約7分)が、衆参予算委員会所属の一部の議員にのみ限定公開。
11/4:44分に編集された漁船衝突時の映像が、「sengoku38」によってYouTube上に流出。
11/10:海上保安官が、自らが「sengoku38」だと名乗り出る。
11/26:仙谷官房長官の問責決議。



2.フジタの社員拘束について

(1)概要

・フジタ社員の四名及び中国人社員1名が、2010年9月、河北省石家荘市における遺棄化学兵器処理関連工事(建設工事)に取り組めるかどうか、現地の事情を視察していた。
・軍事管理区域と呼ばれている区域へ立入り撮影を行ったとして、中国軍事施設保護法違反の容疑で中国当局に拘束され、いわゆる居住監視の下に置かれた。
・9月23日夜、中国国営新華社通信が、フジタ社員を取り調べている旨、報道した。
・9月30日に日本人社員3名及び中国人社員1名が解放された。
・10月9日に最後の日本人社員1名が解放された。[7]


(2)外務省の見解

・前原誠司外務大臣は、フジタの社員が開放された数週間後に、「フジタの事件、邦人拘束事案でございますけれども、これに関しては、尖閣諸島をめぐる一連の動きと関係があると断じることはできなかったということによりまして、この邦人拘束事案が起きたからといって在留邦人に対する注意喚起は特に具体的に行っておりません。」と述べている。[8] これに対し野党は厳しく追求している。

・事件の半年後に、松本剛明外務大臣は、「私どもは、その後も、政府として、中国政府に対し、被疑事実、適用条文等の事案の詳細について説明を求めてきておりますが、いまだ正式な回答は得ていないところでございます。」と答弁している。[9]


3.指揮権発動に関する国会議員他の意見

(1) 小野寺五典議員(自民党・衆)
政治が検察に介入をする、もしこの介入をしたことを政治家が明らかにしなければ、例えば私たち政治家にまつわる政治と金の問題、これだって、知らないところで検察に政治が圧力や介入をすることができることになるじゃないですか。[10]

(2) 長島昭久議員(民主党・衆)
 私は、今回この問題(注:沖縄県尖閣諸島をめぐる事案)で問われているのは、国家の意思だと思うんですね。日本国の国家の意思が問われている、そのように思うんです。したがって、検察に対する政治の介入があったかどうか、こういう問題が本質的な問題では実はない、私はそう思う。国家の意思を体現しているのは政府なんですね。国家の意思を体現しているのは政府。介入すべきときはきちっと介入する、私はそれが求められていると思いますよ。
なぜなら、外交問題というのは、法執行機関である検察の手に負えるような問題ではない、私はそう思うんですね。外交には国民の生命財産がかかっている、私はそう思います。検察ができることは、せいぜい国内法秩序を守ること。政府は、国民の生命と財産、主権と領土、これをしっかり守ることが政府の責任だと私は思います。それを、これまでの政府の説明を伺っていると、検察の判断を追認するかのような、そういう御説明がなされている。私は、この説明で納得していただける国民の皆さんは恐らく一人もおられないと思っているんです。[11]

(3) 仙谷由人国務大臣(民主党・衆) 
塩崎委員から、司法の独立、それで、先ほどから捜査に対する政治の介入があったのではないか、こういう議論がなされてまいりました。私は、この論点は大変重要な論点だと思います。つまり、与党だからこう言い、野党だからこう言いという話ではあってはならないと思います。
一体、これは嫌がらせで言っているんじゃないんですよ。一つの立場として、私の尊敬する御党の総裁の谷垣さんは、これは、逮捕した段階で釈放する手もあったということをおっしゃいます。これは、捜査に対する政治の介入、あるいは政治の指揮で、いわば警察や海上保安庁に身柄があるとき、あるいは入国管理局に身柄があるときには、そういう政治的な裁量で、外交問題もよく考えて、そういう措置をすべきであったという意見なのかもわかりません。そのことは、ある意味では捜査に対する政治の介入と大きく非難されるいわれはないのかもわかりません。
次の四十八時間以内、検察官の手持ちではありますけれども、しかし、この段階で、刑事司法に対して政治の側が、あるいは法務大臣が検察庁法十四条を行使して何らかのことを行う。もっと厳しく捜査をやれというのも、これは指揮権の発動です。あるいは、やるなというのも指揮権の発動になります。それをあえてやることが、どういう場合に許されて、どういう場合にはやってはならないのかという基準がまだ、実例というか、先例としても確立されていない。これは大いに議論をしなければならないと思います。
さらに、司法過程に入ったときに皆さん方は、いわゆる政治の介入をされたと非難を一方でしながら、外交としては拙劣だと。政治の介入をして、責任を明らかにして、捜査に対して、刑事司法に対して影響力を行使せよとおっしゃられているのかどうなのかわからない。ここを私は本当に真剣に国会で議論すべきことだと思っております。今後とも議論をしたいと思います。[12]

(4) 片山虎之助議員(維新・参)
 尖閣諸島事件について申し上げたいんですが、この事件の処理は、国の内外に大変評判が悪いことは御承知のとおりであります。
ところが、総理はこの国会を通じまして、いやいや、それはそういう意見もあるけれども、この処理しかなかったんだと、五年たち十年たてば歴史の評価に堪え得るんだと、こういうことを言われている。私は大変疑問に思っているんですよ。
今回の尖閣諸島事件を私なりに整理しますと、一つは、我が国は法治国家でありながら、法治国家としての筋を通さずに有形無形の中国の圧力に屈したんですよ。それが一つ。それから二つ目は、本来この種のものは指揮権発動云々ではなくて、政治が決めて政治が責任を持つべきであるにかかわらず、検察に丸投げして、法と証拠の検察を振り回したんです。その結果、政治も検察も共に権威を失墜してイメージダウンしたんです。それから三つ目は、尖閣ビデオを早めに一般公開すりゃいいんですよ。それを隠しまくって、結果としては身内から流出して、これは世界中に恥をかいたようなことになっているんです。
中国と事を構えない、中国と穏便にすることをもって、五年、十年の歴史の評価に堪え得るとお思いですか、総理。[13]

(5) 松本健一氏(内閣官房参与(東アジア問題担当))
Q: 釈放は菅氏と仙谷氏の2人で決めたのか
「少なくとも官房副長官くらいはいるかもしれないが、政治家が決めた」
Q:官邸側の誰が法務省・地検側に釈放しろと命令をしたのか
「少なくとも菅氏はしていないでしょう。仙谷氏の可能性が高い」Q:
Q:官邸側の指示で検察が動いたといえるか
「それはそうですね」 [14]

(6) 丸山和也議員(自民・参)
 もう一つ、いわゆる指揮権発動というのは法的手続に乗った手続であります。しかし、いわゆる刑事事件あるいは刑事事件になるべきような事案に対して、その法的手続取らないで政治介入をするということは、これは当然法治国家としてあり得ないことなんですね。
そこで、やはりこれも近時の事件ですけれども、一昨年ですか、あの尖閣諸島事件がありましたときに、中国人船長が当然起訴、裁判になると思っていたら、突如として那覇地検が国際関係、日中関係を考慮して釈放してしまったというとんでもない事件があったんですけれども。これ私は、歴史だんだん解明されていますけれども、いわゆる政治介入していないと言っていますけれども、いわゆる隠れた指揮権発動なんですよね。あのときにやるならば、堂々と当時の法務大臣が指揮権を発動するなら、これは手続としてですよ、その是非は別にして、筋は通っていたと思うんですね。しかし、それをしないで、まあ官邸が中心になって圧力掛けたんでしょう。それで検事にそういう意向を伝え、検察庁がそれを釈放してしまった。[15]

【 参考資料 】

[1] 2013/4/23 参議院 予算委員会 丸山和也議員の質問
ビデオ時間 (22:17-28:25) 以下同じもの
http://www.webtv.sangiin.go.jp/generator/meta_generator_wmv.php?ssp=10938&mode=LIBRARY&pars=0.3529127060090793  
http://www.youtube.com/watch?v=2rf_OkV9cP8&feature=youtu.be&t=10m23s


(自由民主党・無所属の会 丸山和也議員)今日の本題ですが、2年半ほど前、尖閣諸島の漁船衝突事件が起こりました。釈放を決定した時、私は当時の官房長官仙谷由人氏に電話をしました。「法に従っ裁判もしないで処分保留で釈放してしまうというのは、どういうことだ。こんなことをしていたら日本は中国の属国になってしまうんじゃないか」と、という会話をした記憶があります。その時に「そんなことをしたらAPECがふっとんじゃうよ。それに今更属国も何も無いだろう、もう属国だよ」という趣旨の発言をされた。それで私は立腹して、今もその問題を追及しているのですが、これに対する当時の菅内閣ですけど、その扱いについては総理はどのようにお考えになっているのか?

(安倍総理)今、個別の出来事についてはあまりコメントをするべきでないと思いますが、当時の中国の漁船等々の領海侵犯あるいはまた領空侵犯等に対する行為に対して、日本側の体制の基本的な方針は、私は極めて不十分というか、間違っていた、このように考えます。安倍政権においてその対処方針は基本的に改めた、ということは衆議院の予算委員会でお話しをさせて頂いたとおりでございます。基本的にはそれぞれ司法の役割もありますが、日本の領土、領海を守るこの責任を最終的に負っているのは内閣総理大臣でありますから、内閣総理大臣が確固たる決意を示すのは当然のことであろうと、私は思います。

(丸山和也議員)2つの問題があったと思うんです。1つは中国の恫喝に脅えて放免して釈放してしまった、という外交・政治上の問題。もう1つは、官邸主導で地検に命令を出して釈放した、実質的にはですね、これはある意味では政治が司法に介入した裏指揮権発動ともとれるのですが、この点について、指揮権の発動とはどういうものか、法務大臣、説明して頂きたい。

(谷垣法務大臣)指揮権発動とは何か、ということでございますが、検察庁法の14条に規定がございまして、「法務大臣は検察官の事務に関し、検察官を一般に指揮監督することができる。但し、個々の事件の取調又は処分については、検事総長のみを指揮することができる。」こういう規定になっております。それで検察権の行使に関して法務大臣に一般的な指揮監督権がある、ということにしつつ、具体的な事件に関しては検事総長のみを指揮することが出来る--というのはいったいどういう意味なのかというと、検察権は行政権に属しているから、最終的には内閣のコントロール、内閣の責任というものがあるはずでございまして、それを法務大臣の指揮権という形で表現している。しかし他方、司法権と検察権というのは司法権と密接不可分の関係にございますので、独立性の確保、あまり政治のコントロールに全部従うということでは検察・司法の独立性というのも達成できなくなる。その調和がこういう形で表現されている、というふうに理解しております。

(丸山和也議員)過去に指揮権が発動された例はございますか?

(谷垣法務大臣)いま紙はございませんが、犬飼健法務大臣の時に、指揮権の発動、当時の検事総長、佐藤総長とおっしゃったと思いますが、指揮をした例がございます。

(丸山和也議員)過去に1回だけだったと思うのですが、今回、平成23年9月26日の産経新聞によると、松本前内閣参与が「菅・仙谷氏が政治判断によって釈放したんだろうと、これはほぼ間違いないと、官邸側の誰かが法務省地検に釈放しろと命令したのかと、少なくとも菅氏はしていないでしょう、仙谷氏の可能性が高いと」、ま、これはっきりとほぼ断言に近いことをやっているのですが、そうだとすると法務大臣、これは闇指揮権発動ということになるのではないですか?

(谷垣法務大臣)闇指揮権発動というご主張ですが、私が受けております報告は、検察当局において決定したものであると。そしてその決定にあたっては那覇地方検察庁が上級庁である福岡高等検察庁と最高検察庁と協議して決定したものである、という報告を受けております。

(丸山和也議員)この事件はある意味では戦後最大の事件だと思う。領土問題も国の主権も問われた覚醒させた大きな事件だと思う。そして司法と政治の問題もからんだ本当に根幹的な事件だと思いますので、当時の菅元総理、仙谷元官房長官 この二人を参考人として呼んで当委員会で集中的に審議してもらいたいと思うんですが 委員長如何ですか?

(石井一委員長)後刻、理事会で協議いたします。

[2]自民党・町村信孝議員 2012/1/31 衆議院予算委員会
[3]レアアース禁輸に潜む中国の不満 “来年の輸出枠”に揺れる日本企業 (週刊ダイヤモンド、2010/10/4) 
[4]利用したデータベースは「国会会議録検索システム」
   キーワードは、中国漁船、尖閣、松本健一、指揮権発動、フジタ など
[5]ウィキペディア他
[6]平成22年10月26日 参議院 外交防衛委員会
[7]株式会社フジタ プレス発表(2010/10/10)
[8]平成22年10月26日 参議院 外交防衛委員会
[9]平成23年04月15日 衆議院 外務委員会
[10]平成22年09月30日衆議院・予算委員会
[11]平成22年09月30日衆議院・予算委員会
[12]平成22年09月30日衆議院・予算委員会
[13]平成22年11月22日 参議院・予算委員会
[14]尖閣、中国人船長釈放で松本前参与「官邸側が判断した」(産経、2011/9/26)
   (「すけろくのひとりごと」の管理人さんに感謝します。)
[15]平成24年06月19日 参議院・法務委員会

その他参考資料

「権力の大罪 丸山参院議員、仙谷氏を提訴」(政界往来、2012/1号)  ← 必見
「闇に消える『尖閣衝突』法的処理」(渡辺利夫、産経、2012/5/11)

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