2011/10/11

円高を利用した資産買収: 民間に任せるべきだ

2011年8月、財務省は、円高対応緊急ファシリティ(1,000億ドル=約8兆円)の創設を発表した[1]。外為特会のドル資金を活用して、日本企業による海外企業の買収や資源・エネルギーの確保などを促進するものであり、国際協力銀行(JBIC)を経由して企業に融通するものである。

本件は、民主党・自民党・財務省・経済産業省が積極的に実施しようとしていることだが、あえて注意を喚起したい。

【 ニュース 】


海外M&A支援枠10兆円=円高対策で2兆円拡大―政府・民主 [2]
2011/10/04
野田佳彦首相は4日夕、民主党の前原誠司政調会長と首相官邸で会談し、日本企業による海外企業の合併・買収(M&A)を支援する外国為替資金特別会計(外為特会)の融資枠を約2兆円分追加し、10兆円規模とすることを確認した。市場介入によって確保した外貨資産を、国際協力銀行(JBIC)を通じて民間企業に低利で融資する仕組みで、海外での資源確保とともに、円売り・ドル買いの動きを誘発する狙いがある。
政府は8月、緊急円高対策として、外為特会から最大1000億ドル(約8兆円)の融資枠を設定。前原氏はこれに関し、より有効に円高を活用するため2兆円上乗せすべきだと提言。首相は「了解した」と応じた。 [時事通信社]


【 検索結果 】

国会議員のホームページとブログを対象にした「まるごと検索」を使って、"円高対応緊急ファシリティ"を検索すると、中西健治議員(みんなの党、参議院)がこれを論じていることがわかった。 彼は、JPモルガン証券会社で約20年勤務しており、取締役副社長の経歴がある金融の専門家である。

彼は、2011年4月、財務金融委員会において、国際協力銀行(JBIC)を日本政策金融公庫から分離独立させるという政府法案に反対する質疑をしている。[3]

また、「円高対応緊急パッケージ」に関しは、ブログ記事のなかで、3つの観点から疑問を持っている、と書いている。[4]
1. 円高対策としての効果は、限定的であると考えられる。
2. 外為法の改正や外為資産運用基準の見直しが必要である。
3. 2012年4月に日本政策金融公庫から分離独立するJBICの肥大化させることが目的化している懸念がある。


【 コメント 】

円高対策として、企業買収や資源権益買収はすばらしい考えであることは間違いない。なぜならば、たとえば100円/$のとき100億円の価格がついていた案件は、80円/$であれば80億円と20%も安くなるからである。しかし、政府が関与することについては大きな問題がある。中西議員の意見とは別の観点から、注意を喚起したい。

資源権益買収の例として、日本企業が石油を生産している鉱区権益を取得すると想定しよう。

1. 責任の所在が薄れる。

そのような案件では、次のようなJV事業体制になると考えられるが、民間会社1社あたりの責任が薄れることになる。
①JBIC:60%(あるいは70%)を上限に融資[5]。
②市中銀行:20%を融資。
③民間会社(例えば4社が均等に参加):20%を出資。1社あたり総事業費の5%。

2. 資源案件はリスクが高い。

原油埋蔵量が想定する量より小さい場合があるし、買収した後に円安になることが容易に想定できる。(その逆もあるが。)その場合、円高で割安になった分は、すぐに帳消しになる。60%の資金を負担しているJBICは、日本貿易保険(NEXI)あるいは石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)に債務保証を求めるだろうが、政府系機関が政府系機関を保証しても国が損を被るのは同じである。リスクが高いからこそ、民間会社は少ない負担で大きい勝負をするのであり、その分JBICがリスク負っているのである。

3.JBICは民業を圧迫している。

日本のJVは、JBICから融資を受けなくとも、企業は市中銀行から融資を受けて鉱区権益を買収できるのである[6]。JBICが融資しなければ、市中銀行の融資額は増える。その意味では、JBICは民業を圧迫していることになる。週刊ダイヤモンドは次のように伝えている。[7]

産業界はJBICの動きを歓迎する。大手商社幹部は「政府の支援を受けて、資源やインフラ案件を獲得する国家資本主義が世界的に幅をきかせる時代にあり、日本でもJBICなどの政策金融の重要性が高まっている」と説明する。
そのため関係者のあいだでは、肥大化論議をタブー視する雰囲気すらあり、この幹部は「JBICが焼け太りしているのは間違いないが、それを口にしたら業界から干されますよ」と声を潜める。


4. 原油を安く調達できない。

JVに参加する日本企業は、通常は、商社と石油開発会社であり、ユーザー(例えば石油精製会社や電力・ガス会社)ではない。ユーザーは、鉱区権益を取得したJVから市場価格で購入するだけなので、特段のメリットはない。(安定供給という点では、意義がある。)

5.日本企業が取得するのは小さな権益だ。


日本のJVは鉱区の操業をするオペレーターシップまでとることは稀であり、せいぜい30%の権益を取得するだけある。外国の会社にオペレーターを任せ、日本の会社はノン・オペレーターになるだけである。本格的に技術習得することは難しい。

最後になるが、民間ができることは民間に任せるべきであり、外為特会のドル資金は、復興資金として使うべきである。財務省はJBICに天下りし、JBICは商社などに天下りして、銀行は財務省におおっぴらに異論を唱えない----そんな関係ができてしまっている。


[1]財務省「円高対応緊急パッケージ」発表  
http://www.mof.go.jp/international_policy/gaitame_kawase/press_release/230824.htm
[2] 時事通信社 http://jp.wsj.com/Japan/Economy/node_318965
[3} http://nakanishikenji.jp/diet/zaisei/3111
http://nakanishikenji.jp/diet/zaisei/3122
[4] http://nakanishikenji.jp/blog/kinyuu/4450
[5] 「円高対応緊急ファシリティの実施要領について 」
http://www.jbic.go.jp/ja/about/news/2011/0922-01/index.html
[6] 2011/8/24付ロイター記事「政府の円高対応基金、企業の海外投資加速につながるかは不透明」
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPJAPAN-22851520110824?sp=true
[7] 2011/9/16付週刊ダイヤモンド 「円高対策の『巨額基金』創設で進行する国際協力銀行の肥大化」
http://diamond.jp/articles/-/14057

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